『小宮と滝沢』








13



盆も済んで、休みもあと3日。
宿題も全部終わり、暇潰しに他の部活を見て廻る。

炎天下の野球にサウナの柔道。
熱帯のバスケにバレーに卓球部。

よくもまあやると思いながら、
仮にやる気があっても出来ないだろうなと思い直す。


ジャージに着替えて花壇に向かう。

トマトももう終わり。

秋って何があったっけ。


周りの草を抜いていると、後ろから気配がした。

振り向くと、職員玄関に1人、こっちを向いて立っている。

「‥‥」

誰だ?
見たことない顔。
それに、

「君、園芸部?」

ゆったりした足取りで来たのは、
半袖シャツから白く細い腕を出し、
その先に似つかわしくないゴツいカメラを持っている、
今にも消えそうな男子生徒。


青色のサンダルを履いてるから、3年か。

それにしても、細い。


「そうです」

「写真、撮ってもいいかな」

「ぇ」

「ミニトマトの」

「‥‥はぁ、どうぞ」


残り少ない実を垂らし、
大きな枯れ葉を揺らしてる、

これを撮る許可を取る。


少し離れると、先輩はすでに前屈みになって探ってる。

カシャと重たい音と、真剣な目。


何枚か撮ると、数歩後退り考えはじめた。

「‥‥あの」

「ん?」

「先輩、靴、サンダル汚れますよ」

「ああ、まぁ大丈夫でしょ。バレないバレない」

「‥先輩は何でこんなのを撮ろうと思ったんですか」


枯れていて、見栄えも何もないこのトマト。


「部活してる人達でも撮った方が、まだ絵になりそうですけど」


すぐそこで弓道部の声がする。
ちらと先輩を見ると、先輩はトマトをじっと見ていた。


「人を撮るの、苦手なんだ」


大きなカメラを持ち直す。


「このトマト、もうすぐ終わりだよね」

「‥‥はい」

「葉も枯れてきて、重たい実に必死に堪えて、それでもまだ赤くなる。そういうのが撮りたいんだ」

「‥‥」

先輩はニコッと笑って、また何度かシャッターをきり、「じゃ、ありがとう」と玄関に入って言った。



夕方6時。
滝沢が来た。

「あれ小宮、どしたの」

座り込んでいたから不信がられた。


「別に、座ってただけ」

「顔赤いよ、いつからいたの」

「昼過ぎから」

「え、ずっと?」


ゆっくり立ち上がると、少しくらっとした。

そうか、ずっと座ってるって、無いのか。


「変な先輩が来たよ」

「何が変?」

「枯れかけのトマトの写真撮ってった」

「‥‥これを?」

「うん」



まだぬるい風が、雲を流していく。


あの先輩の目には、どんな風に映っていたんだろう。



葉も枯れてきて、
重たい実に必死に堪えて、
それでもまだ赤くなる。

そういうのが撮りたいんだ




いつか、この言葉が 解るようになるんだろうか。








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