『小宮と滝沢』








18



期末試験を控えて教室で居残り勉強をしていると、担任の橋口先生が来た。


「なんだお前達、勉強してるのか」
「はい」
「お、あったあった。ペン忘れてな」

ムキムキマッチョの先生は、見ての通り体育の先生。


「二人とも暇なら運動部入れよ」
と、二言目にはこれ。


「勉強してるけど暇に見えますか」

小宮はこの先生が苦手らしい。
眼光鋭くにらまれ、1歩下がる。

「‥‥そうだな。お前達はちゃんと園芸部やっとるしな。俺の悪い癖だ。成績も問題ないが、今度の期末は難しいらしいから、頑張れよ」

「はい」

先生は廊下へ出て走ってる生徒を叱り、太い声は段々遠くなっていった。


「前に比べて丸くなったな、あのマッチョ」
「小宮、ほんと苦手なんだね」
「別に、苦手じゃない奴の方が少ない」

ノートに空欄を入れた問題を作りながら、捲れてしまった教科書を肘で固定してる。

「でも先生、前はもっとアレだったみたいだよ」
「アレ」
「体育は世界を救う、みたいな」
「アレ以上だったのか」
「文化部の幽霊をしょっぴいてたって」
「地獄か」
「もう今は無いみたいだけど。なんかあったのかな」


悪い癖だって、眉を下げてた。

直そうとしてる姿は、1人の人間として慕うものがある。


癖か。


この前小宮に指摘されてから、やっぱり気づいたら横を見ていた。

それから、理由を探してみた。


家族で食事してる時。
3人が楽しく会話してるのに混ざるのが億劫で、ずっと横のテレビを見てた。

親戚が来た時。
姉と比較されたくなくて、ずっと外の犬を見てた。


横を向いていれば、都合の悪い話を振られた時「聞いてなかった」と言える。
「またアンタはボーっとして」とその場は流れ、追求されずに済む。


逃げる為の癖。


直そうと思えば直るだろうけど、
新しい解決策が浮かばない。

‥‥何も進まないな。


気づくとまた窓の外を見てた。

あああと項垂れていると「滝沢滝沢」と小宮がペンで机をぺしぺし叩いた。
「全問正解した」

にやっと笑う顔からノートに目を移すと、欄を埋めた綺麗な字。

「さすがだね‥‥」
「滝沢が変な顔してるうちに済んだ」
「変‥‥」


とりあえず今できることは、就職に備えて成績を良くすることだな。

こなせる所からやるしかない。



大人になったら、きっともっと上手く進めるようになるんだろうな。








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