『小宮と滝沢』 4 屋上での昼食が日課になった。 「滝沢の弁当、親が作ってんの?」 「いや、自分で作るよ」 「毎日?」 「毎日」 「面倒じゃない?」 「コンビニ不経済じゃん」 小宮はいつもサンドイッチやおにぎり。と、自販機のジュース。 「これコンビニじゃないよ。うちの近くのスーパー、6時になると値引きするから、それ」 「え、期限切れてんじゃ」 「1日くらい平気でしょ」 「‥夏は危ないよ」 「滝沢の保冷バックに入れとくよ」 風に紛れるように溜め息を一つつく。 「自分で作る気は無いんだ」 「無い」 「将来困るよ」 「困ったら考える」 眉をひそめたら小宮は、食べ終わった30円引きのシールが張られたおにぎりの袋を、丁寧にたたんだ。 「金さえあれば、なんとかなるでしょ」 「小宮んち、お小遣いくれるの?」 「くれる‥‥。ん、あるよ」 「そっか‥。うちは無いから、来週からバイトする」 「へぇ」 「小宮はしないの?」 「バイトか‥‥。」 「お小遣いあるなら必要ない?」 「金はあるに越したことないでしょ」 「‥うん。やっぱり自分で使うものだしね。親になんて‥‥」 卵焼きを取ろうとして、箸を止めた。 ‥‥‥‥なにを、 「‥‥滝沢?」 「‥‥ごめん、ただの愚痴だ」 なにを、言おうとしてるんだか。 「‥‥親と、何かあったんか」 「親は、関係無いよ」 そうだ。 元凶はそこじゃない。 「そうか」 パックのジュースを、音をたてて吸い込む。小宮の横顔。 雲が少しだけ浮かぶ青空に、小さな飛行機が見える。 小宮と居ると、何故か気持ちが楽になった。 家族や親戚や他のクラスメイトとは無い、 「バイト、考えてみる」 「うん」 一緒に居ると楽なのは、 小宮は、深く追求しない。 違う、 ひとには、 “他人に絶対に言えないことがあると知っている”からだ。 ●← 4 →● TOP |