『小宮と滝沢』










屋上での昼食が日課になった。


「滝沢の弁当、親が作ってんの?」
「いや、自分で作るよ」
「毎日?」
「毎日」
「面倒じゃない?」
「コンビニ不経済じゃん」

小宮はいつもサンドイッチやおにぎり。と、自販機のジュース。

「これコンビニじゃないよ。うちの近くのスーパー、6時になると値引きするから、それ」
「え、期限切れてんじゃ」
「1日くらい平気でしょ」
「‥夏は危ないよ」
「滝沢の保冷バックに入れとくよ」

風に紛れるように溜め息を一つつく。

「自分で作る気は無いんだ」
「無い」
「将来困るよ」
「困ったら考える」

眉をひそめたら小宮は、食べ終わった30円引きのシールが張られたおにぎりの袋を、丁寧にたたんだ。

「金さえあれば、なんとかなるでしょ」
「小宮んち、お小遣いくれるの?」

「くれる‥‥。ん、あるよ」

「そっか‥。うちは無いから、来週からバイトする」
「へぇ」
「小宮はしないの?」
「バイトか‥‥。」
「お小遣いあるなら必要ない?」
「金はあるに越したことないでしょ」
「‥うん。やっぱり自分で使うものだしね。親になんて‥‥」


卵焼きを取ろうとして、箸を止めた。


‥‥‥‥なにを、


「‥‥滝沢?」
「‥‥ごめん、ただの愚痴だ」

なにを、言おうとしてるんだか。


「‥‥親と、何かあったんか」
「親は、関係無いよ」


そうだ。
元凶はそこじゃない。


「そうか」

パックのジュースを、音をたてて吸い込む。小宮の横顔。


雲が少しだけ浮かぶ青空に、小さな飛行機が見える。

小宮と居ると、何故か気持ちが楽になった。
家族や親戚や他のクラスメイトとは無い、

「バイト、考えてみる」
「うん」


一緒に居ると楽なのは、



小宮は、深く追求しない。



違う、

ひとには、


“他人に絶対に言えないことがあると知っている”からだ。






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