『小宮と滝沢』










小宮より3つ手前の駅で降り、自転車で10分。

祖母が生前植えた木に囲まれた一軒家に着くと、まず車をチェックする。


この癖、いつからあるんだっけか‥。


小学生の時は玄関のランドセル置き場だった。

中学では自転車。

今はその駐車場に黒の軽自動車があるか無いかに変わった。



今日は、まだ帰ってない。



玄関に入り部屋に直行する。

昔は相部屋だったけど、祖母が亡くなってからはそこが自分の部屋。


制服を着替えて窓を網戸に替える。

草むしりしたからか、膝と爪先が痛い。
畳んである布団に倒れるように横になると、うとうとと微睡に落ちた。





――話し声に飛び起きると、居間の方から物音がする。


‥‥帰ってきた。


「何分に出るのー?」
と叫んでるのが母さん。

「無い無い無い〜」
ガサガサと探し物をして騒いでいるのが姉。


時計を見ると、7時10分。

10分しか寝てなかったのか‥‥。


目覚めが悪かったせいか、ひどく頭が重い。
水を飲みに行こうとしたら、母さんが車の鍵を取りに来ていた。

「あれ、あんた帰ってたの」

「どっか行くの」

「お姉ちゃんが学校の友達とご飯なんだって。そのまま泊まるって言うから送ってくわ」

「‥‥」

「晩御飯、何か作っといてよ。遅くなるから」

「‥‥ん」


「あったあった!」と叫びながら姉さんが階段を降りてくる。

目の前を慌ただしく過ぎ去り、玄関の靴をぐちゃぐちゃに蹴飛ばして行ってしまった。



流し台に移動してコップに水を注ぎ一気に飲む。


安心している自分が居る。

けれど、それが許せない。

それでも、あんな風にはなりたくない。



思考を停止させたくて、冷蔵庫から豚肉を出して炒める。
フライパンでジュウジュウ音を立てている間に玉葱を切り、放り込む。
ペーストの中華スープの素を入れ、胡椒を振る。

冷蔵庫から漬物を出して、今のうちに全部かきこむ。



この感情を消したい。

支配されたくない。

このままでいいんだと認めて欲しい。

でも変わりたい。

抜け出したい。



自分の心の中を真っ黒にするそれが、じわりと身体を包む。

どうしたら、こんなことに縛られなくなるんだろう。




どうしようもなく、
どうやっても、
どうしても、

姉のことが、駄目なこと。








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