『小宮と滝沢』










授業中は、うざったいくらい静かで、嫌気がさす。


机に突っ伏してる奴

起きてるように見せかけ寝てる奴

頑張って固定しようとしてるけど頭をカクカク落としてる奴。


静まりかえった生徒の上を、ただすり抜けていく教師の声。



どこにも属せない自分に、イライラする。






掃除を終えて教室に戻ると、ホームルームで『家族に』と『自分達に』プリントが配られた。


進路希望調査。
それに伴う、三者面談。


「三者面談は2学期に入ってすぐにやるからな」


担任が何か言ってる。


のしかかる圧力に、手が震えるのを必死で止めた。


思考が、停止した。





「小宮は進路決まってるの?」

昼休み。屋上。

いつの間に来てたんだ。


「なんか昨日から上の空だから、それが原因かなって」

「‥‥ああ、ん‥」

滝沢も、いつの間に隣にいたんだろう。

何も覚えてない。


「就職するつもり‥‥。でも親は進学しろって思ってる‥‥多分」

「‥‥」

「滝沢は」

「就職だよ。進学するお金無いし」

「バイトしてるじゃん」

「それでも足りないよ。卒業したら家出るつもりだし。免許もいるし」

「え」

「何?」

「もうそんなに考えてるんか」

「うん。だからこの学校もC組にしたんだ。資格いっぱい取りたいから」


A組はバリバリの普通科

B組は普通科兼家庭科系

C組は普通科兼特別科目

D組は簿記や商業経営系


「‥‥」

何も考えてなかった。

ただ、抜け出したいっていう欲求しか無かった。
それこそ子供じみた、思うだけで行動しないただの欲。


「三者面談とか、嫌だよね」

「‥‥ん」

「やるのは1年だけなんだって。2・3年は希望する人だけみたい」

「え、そうなん?」

「うん」

それなら、今回だけ誤魔化せばあとは大丈夫。な、はず。


「3年後には、もう働いてるのか〜」

「就職できればな」

「大丈夫でしょ、田舎は子供少ないし、他の高校はほとんど進学校だし。

「その代わり企業も少ないけど」

「うん。だからどこでも通るようにしなきゃだなー」

あーあと横で大きく背伸びをする。


とりあえず、不安は1つ無くなった。

あとは、都合の問題か‥‥。




家に帰りすぐに部屋に行き、携帯電話のアドレス帳を開いた。

面談のプリントを前に置き、コールする。


5時半。
まだ出られないかな。

プツと途切れ「もしもし」と言う声。

「父さん、まだ仕事中?」

「ああ、大丈夫。どうした?」

「8月に三者面談があるんだけど、休み‥‥来れるかな」

「8月の下旬?」

「うん」

「なら行けるよ。じゃあ盆休みをそこで取るようにするから、細かい日時が決まったらメール入れといて」

「わかった。‥‥ごめん」

「‥お前が謝ることは何もないよ」


向こう側で、困った顔をしてるんだろうな。


「変わりはないか」

「‥‥うん、相変わらず‥」

「そうか。‥何かあったら、すぐに連絡しろよ」

強い口調。
でも難しいことはわかってる。

「‥‥うん」


通話を切り、プリントを引き出しの奥にしまう。



変わることなんて、永遠に無いような気がする。

少なくとも、良い方には。



絶対。








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