最近の狐火のはなし
収録者 伊藤 善夫 信越放送飯田支局長 話 者 山崎 正 収録日 昭和56年10月27日 |
こりゃ、昭和の初めころと思いますに。
木澤でこんなことがあった。町のまん前を遠山川が流れとるが、その川西から山に向かって、
狐火が列を作っちゃあ上へ上と毎晩のようにのぼった。
大勢の衆が見たつうから、間違えねえ。
みんな、不思議なこともあるもんだと、噂しとった。
ところが、それからしばらくして、どえらいことがおこっちまった。
ある日のこと、大火事がおきてな。町の中心地の家が、なんと24軒も焼けちゃった。
あの狐火ちゅうのは、そのまえぶれだったんずらか。
それからもうひとつ、こんな話があるに。
木澤にゃ、ふもとから1里上ったとこに小嵐稲荷という社がある。
地元の衆は、こあらし様っていっとるが、そりゃ、霊験あらたかな神様だ。
春・夏の祭りにゃ、村の衆ばっかじゃねえ、よそ村の人も集まって、花火もあげる。
そりゃあにぎやかなもんだに。
氏子衆は、祭りの前の晩から泊り込んでおこもりに入り、あしたの本祭りにそなえる。
ある年のこと、早稲田大学の学生がまつりの研究にきとって、3人の学生が社に泊ま
ることになった。
「それじゃ今夜は、若い衆頼みますに」氏子衆は、みんな家へ帰っていっちゃった。
ところが、あくる朝、夜も明けんうちに、その学生たちが青い顔をして世話役の家に
かけこんできた。
「夕べはどえらい目にあった。夜中に小便に起きたら、小嵐さまの前を狐火が列になって
揺らいどった。おそろしくて外へ出られんので、寝ておる連中を起こして、ブルブルふる
えながら3人でようやく用を足した。一体ありゃなんだったんですか」
「あんたがたの中に、誰かブクがあるもんがおらんかい」
するとある学生が、
「そういえば、去年、おいさんが亡くなった」
「ああそうか、そのブクがあるもんで、小嵐さまがきっと怒ったにちがいねえ。それで
一晩中、狐火でおまえさんたちを眠らせなかったんずら」
ブクがあった年にゃあ、だあれもまつりに出れんことになっとるでよ。
参考までに
ブク 最近、近親者が亡くなったりして不幸があったこと。
木澤の大火 椀かしぶち かみさまのたまご
小嵐さま 椀かしぶち 小嵐さまのたたり